「AI導入に補助金は使える」と書いてあるものを、公募要領まで全部読んでみた
「AI導入には補助金が使えます」という一文を、自分のサイトの制作メニューに書こうとしていました。そう書いてある案内はいくらでもありますし、制度自体は本当に存在します。ただ、公開する前に一次情報を見ておこうと思って、公募要領のPDFを開きました。
結果として、書こうとしていた文章は1行も残りませんでした。代わりに残ったのは「先に発注しないでください」という、まったく逆向きの注意書きです。この記事は、そこに至るまでに読んだ原文の記録です。制度の紹介ではなく、「使えます」と書く前に読んでおくべきだった部分だけを抜き出しています。
調査時点は2026年9月7日です。補助金の公募要領は回ごとに改訂されるので、次の回では条件が変わっている可能性があります。実際に申請するときは、その回の公募要領を必ず自分で開いてください。また、自分は弁護士でも行政書士でもないので、この記事では法的な判断はしていません。条文と要領に「こう書いてある」という事実と、その出所だけを書いています。
1. いちばん効いたのは、金額ではなく「順番」だった
費目や上限額を調べるつもりで開いたのですが、最初に手が止まったのはそこではありませんでした。小規模事業者持続化補助金〈一般型・通常枠〉第20回の公募要領(第8版)の 10.(3) に、こう書いてあります。
補助金の対象となる経費の発注・契約・支出行為は、「補助金交付決定通知書」に記載された交付決定日から可能です。……交付決定日前に行われた発注・契約・支出行為は、補助対象外です。
対象とならない経費の一覧にも、同じことが別の言い方で載っています。「交付決定前に発注・契約、購入、支払い(前払い含む)等を実施したもの」。対象になる経費の定義も「交付決定日以降に発生し補助事業期間中に支払が完了した経費」です。3か所で同じことを言っている、ということは、間違える人が多いということだと思います。
そして、その交付決定がいつ出るのかについては、こう書いてあります。
交付決定には、採択後、詳細な見積書が速やかに提出された場合でも、採択発表から概ね1〜2か月かかる場合があります
第20回は、申請の受付が2026年11月5日から12月15日17時まで。商工会・商工会議所が発行する様式4の受付締切は12月4日です。ここから逆算すると、申請を出し終えるのが12月中旬、そのあとに採択の発表があり、さらに1〜2か月かけて交付決定。発注していいのはそこからです。
つまり、「今すぐ作りたい」と「補助金を使いたい」は、たいてい両立しません。ここを言わずに受注してしまうと、着手した瞬間にお客さんが補助金を失います。金額の話をする前に、これを最初に確認しなければいけない項目でした。
2. 「AIだから対象」ではなく、費目に何と書いてあるかで決まる
※以下はすべて、第20回 公募要領 第8版(2026年9月7日時点で公開されていた版)の記載です。
持続化補助金でウェブ関連の費用が乗るのは「ウェブサイト関連費」という費目です。ただし上限は税込30万円で、しかもこの費目だけでの申請はできません(他の経費と併せて申請する必要があります)。50万円以上のサイトやシステムは処分制限財産になり、取得日から通常5年間、事務局の承認なしに処分できません。
そのうえで、対象とならない経費の欄に、次のものが名指しで並んでいます。原文のまま引きます。
- 「ウェブサイトおよびシステムに関連するコンサルティング、アドバイス費用」
- 「コンサルティング、アドバイス費用(インボイス制度対応のための専門家への相談費用は除く)」
- 「講習会・勉強会・セミナー研修等参加費や受講費等、図書等の資料購入費」
- 「電子書籍や本の出版に係る費用」
- 「SNS広告、運用代行費」
- 「補助金応募書類・実績報告書等の作成・送付・手続きに係る費用」
- 「売上高や販売数量、契約数等に応じて課金される経費や成功報酬型の費用」
| やっていること | 要領のどこに当たるか |
|---|---|
| Webサービス・学習ツールの制作 | ウェブサイト関連費(上限30万円・この費目だけでの申請は不可) |
| サイトやシステムの相談・助言 | 「ウェブサイトおよびシステムに関連するコンサルティング、アドバイス費用」=対象外 |
| 研修・勉強会 | 「講習会・勉強会・セミナー研修等参加費や受講費等」=対象外 |
| 電子書籍の出版まわり | 「電子書籍や本の出版に係る費用」=対象外 |
| SNSの運用代行 | 「SNS広告、運用代行費」=対象外 |
| 申請書類そのものの作成 | 「補助金応募書類・実績報告書等の作成・送付・手続きに係る費用」=対象外 |
これを自分のメニューに当てはめると、はっきりしました。制作費は対象になりうる。相談も、研修も、運用の伴走も、電子書籍の出版支援も、サイトの監査も、全部この一覧のどれかに当たります。「AI」という単語は、この判定に一度も出てきません。判定しているのは技術ではなく費目です。
ついでに言うと、「有料の講座で使用する動画や電子教材の作成」や「販売や有償レンタルを目的とした製品、商品等の生産・調達に係る経費」も対象外に入っています。作ったものを自分で売る前提だと、制作費でも外れることがある、ということです。
3. 「IT導入補助金があるじゃないか」と思って、入口で落ちた
次に見たのが、2026年に「デジタル化・AI導入補助金2026」という名前になっている制度です。名前にAIが入っているので本命だと思っていました。
まず、この制度は事業者側が勝手に使えるものではなく、IT導入支援事業者としての登録が要ります。その登録要領 1.2(イ) にこうあります。
幹事社として登録できるのは法人のみである。個人事業主は、コンソーシアム構成員としてのみIT導入支援事業者となることができる
個人事業主は単独では登録できない、ということです。ここで自分は入口で外れました。
では、補助の対象そのものは何か。通常枠の公募要領 2-2(1) は、こう定義しています。
補助対象経費は、IT導入支援事業者が提供し、あらかじめ事務局に登録されたITツールの導入費用とする
つまり登録済みのツールを導入する費用であって、これから作るものの費用ではありません。
では何が登録できないのか。ITツール登録要領 2-3(1)2. に、登録対象にならないものが列挙されています。
- 「製品が完成されておらず、スクラッチ開発を伴うソフトウェア」(過去に特定顧客向けに開発したコードを再利用して追加開発するものも含む)
- 「特定の顧客向けに限定され、一般市場に販売されていないもの」
- 「ホームページ制作、サイト制作、WEBアプリ制作、スマートフォンアプリ制作、コンテンツ制作等の制作ツールにおける、追加開発に掛かる費用が含まれているもの」
- 「業務プロセスに影響を与えるような大幅なカスタマイズが必要となるもの」
受託でオーダーメイドに作るという行為が、ほぼそのまま除外条件として書かれています。加えて、公募要領の補助対象外には「対外的に無償で提供されているもの」もあり、無料で公開しているツールは登録できません。「補助金申請、報告に係る申請代行費」も対象外です。
この制度は、完成して一般に販売されているパッケージを買うためのものでした。名前にAIが入っているかどうかとは関係なく、設計思想が受託開発と逆を向いています。
4. 申請そのものを手伝うことについて、法律に何と書いてあるか
ここまで読んで、「なら申請の部分を代わりにやってあげれば価値になるのでは」と一瞬考えました。これも先に条文を見ておいてよかった部分です。
行政書士法(昭和二十六年法律第四号)の第一条の三は、行政書士の業務をこう定めています。
他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類……その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする
そして第十九条(業務の制限)が、こうなっています。
行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。
この「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という部分は、もともと条文にあった文言ではありません。令和七年法律第六十五号「行政書士法の一部を改正する法律」(公布 2025年6月13日)で追加され、2026年1月1日から施行されています。改正前の19条1項は「業として……行うことができない」だけでした。
日本行政書士会連合会の会長談話(2025年11月1日)も、同じ趣旨の説明をしています。会費・手数料・コンサルタント料・商品代金といった名目のいかんを問わず、対価を受け取って書類を作成することは19条1項に違反する、という内容です。罰則は第二十一条の二で、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
制度の解説や情報提供は書類の作成ではないので、この制限の対象ではないと読めます。一方で、相談や壁打ちがどこまでで、どこからが「作成」なのか——その線引きについては、総務省の解釈を一次情報で確認できませんでした。弁護士でも行政書士でもないので、自分で線を引くことはしません。
もうひとつ、補助金の側にも記述があります。中小企業省力化投資補助事業(一般型・第6回)の公募要領には、「不適切な行為の例」という項目があります。そこに並んでいるのが「補助金申請代行を主たるサービスとして営業活動等を行う」「作業等にかかる実際の費用等とかい離した高額な成功報酬等を申請者に請求する」です。
同じ要領は、事業計画の作成を支援した者がいる場合に「事業計画書作成支援者名」「作成支援報酬額」を申請画面へ必ず記載させています。記載がなければ、申請にかかる虚偽として不採択・採択取消・返還・不正内容の公表があり得るとされています。持続化補助金にも同じ趣旨の規定があり、こちらは「着手金、成功報酬その他名目のいかんを問わず」記載を求めています。そのうえで、第三者の支援者にヒアリングや現地調査を行う場合がある、としています。
要するに、手伝えばその名前と報酬額がお客さんの申請書に載り、事務局の確認対象になるということです。条文と要領にこう書いてある以上、このサイトのメニューに申請支援を置くことはしていません。
5. 「実質負担◯円」と書かないことにした理由
広告でよく見る書き方です。書けるなら書きたかったのですが、公募要領の注意事項がそのまま否定していました。申請手続きの前に必ず読むよう指示されている欄に、3つ並んでいます。
本補助金は、審査があり、不採択になる場合があります。/審査の結果次第では、申請している補助金申請額から減額または全額対象外となる場合もあります。/補助事業遂行の際には自己負担が必要となり、補助金は後払いです。
採択されなければ全額自己負担、採択されても減額されうる、採択されても一度は全額を立て替える。「実質負担◯円」は、この3つを全部なかったことにする表示になります。
表示のルールの側も見ておきました。景品表示法(昭和三十七年法律第百三十四号)の第五条第二号です。価格その他の取引条件について「実際のもの……よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」を禁じています。
消費者庁が公表している打消し表示の実態調査報告書も読みました。強調表示の内容が実際を反映しているのが原則で、打消し表示は例外的に使われるべきもの、という整理です。そのうえで、強調表示と打消し表示が矛盾する場合は誤認され、景品表示法上問題となるおそれがある、としています。大きく「実質◯円」と書いて、小さく「※採択された場合」と添えるのは、まさにこの型に当たります。
なお、この法律が事業者向けの取引にどこまで及ぶかについては、条文が「一般消費者」を保護対象としていることもあり、自分では結論を出せませんでした。ただ、公開しているページは誰でも見られますし、相手が個人事業主やフリーランスであることもあります。判断がつかないほうに寄せて、書かないことにしました。
6. 確認できなかったこと
読み切れなかった部分は、読み切れなかったものとして書いておきます。
- 行政書士法19条の「作成」と「相談・助言」の線引き。総務省の解釈を一次情報で確認できませんでした
- 認定経営革新等支援機関の認定要件(個人がなれるのか、実務経験がどこまで要るのか)。中小企業庁の該当ページが403で本文を取得できませんでした
- 認定支援機関になった場合に、行政書士法19条の制限がどう扱われるのか
- 持続化補助金の直近の採択率。手元に数字はありますが再検証していないので、この記事では使いません
- 東京都の中小企業デジタル導入促進補助事業で、オーダーメイドの受託開発が対象になるかどうか。公社のページに明示がありませんでした
このあたりは、無料で相談できる窓口があります。制度の使い方は各都道府県のよろず支援拠点や商工会議所、士業規制の線引きは各都道府県の行政書士会です。
自治体の制度には、自治体の窓口があります。たとえば目黒区の専門家活用支援事業では、費用が助成される「専門家」が7つの資格に限定列挙されています。公認会計士・司法書士・行政書士・税理士・中小企業診断士・社会保険労務士・弁理士の7つです。無資格の人に払った支援費用は、この制度では助成されません。「申請支援の費用にも補助が出ます」という説明は、少なくともこの区の制度では成立しないことになります。
7. では、何が残ったのか
全部だめだったわけではありません。読んだ中でいちばん噛み合っていたのは、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第1回の公募要領が2026年6月29日公開)でした。「機械装置・システム構築費」の定義がこうなっています。
専ら補助事業のために使用される専用ソフトウェア・情報システム等の購入、構築、借用に要する経費
「専ら補助事業のために使用される」「構築」。IT導入補助金がスクラッチ開発と特定顧客向けを除外していたのと、ちょうど裏返しです。オーダーメイドで作るものが正面から入ります。同じ「AIツールを作る」でも、どの制度を見ているかで結論が逆になる、というのがこの調査でいちばん驚いた点でした。
ただし、こちらにも作る側に効く条件が付いています。※以下は第1回の公募要領(2026年6月29日公開/2026年9月7日時点で確認)の記載です。
- 100万円(税抜)以上のシステム構築費を計上する場合、実績報告時に要件定義書(費用見積書を含む)または開発費用算出資料の提出が必要とされています。資料の中身として、作業単価、作業工数及び作業時間、固定費用、作業担当者、作業担当者勤務記録等が挙げられています。つまり受注した側に、工数の記録を残す作業が実質的に発生します
- 専門家経費は、補助対象経費総額(税抜)の5分の1が上限です。謝金の単価にも上限があり、大学教授・弁護士・弁理士・公認会計士・医師が1日5万円以下、准教授・技術士・中小企業診断士・ITコーディネータが1日4万円以下、それ以外は1日2万円以下とされています
- 「技術導入費、外注費、専門家経費の支出先に同一の事業者を含めることはできません」。つまり開発を受注した業者が、同じ案件でコンサル料も受け取ることはできません
- 「事業計画書の作成支援者に対する経費は、専門家経費の対象外」とされています
補助事業のPRのためのウェブサイトの経費は、システム構築費ではなく広告宣伝・販売促進費のほうに入る、という注記もありました。同じ「サイトを作る」でも、何のためのサイトかで費目が変わります。
まとめ:読んでみて、書くことが変わった
調べる前に想像していたのは「AI関連は補助金が手厚いので実費が下がる」という話でした。実際に要領を開いて出てきたのは、まったく別の3つの軸です。いつ着手するのか(順番)、その費用は要領のどの費目に載るのか(費目)、申請書は誰が書くのか(主体)。「AIかどうか」はどこにも効いていませんでした。
なので、制作の相談を受けたときに最初に聞くべきことも決まりました。いつ着手したいですか。その費用はどの費目にあたりそうですか。申請書はどなたが書きますか。この3つが決まらないうちは、金額の話をしても意味がありません。特に1つ目は、答えが「すぐ」なら補助金の話はそこで終わります。終わることが分かっているほうが、あとで無駄になりません。
費目の整理までは、要領を読めばできます。ただし、採否と経費の可否を決めるのは各補助金の事務局です。読んだ側の整理は、あくまで判断の材料でしかありません。
次の1アクションとして書いておくと、補助金を使うつもりがあるなら、まず発注を止めて、その回の公募要領のPDFを自分で開いてください。読むのは費目の一覧と、交付決定に関する記述の2か所だけで十分です。そこで日程が合わないと分かるなら、それが早く分かるほど得をします。
ひとりで作って公開する過程で踏んだ失敗はこちらの記事に、ログインを作らないと決めたときの判断はこちらに書きました。制作のご相談はお問い合わせからどうぞ。
2026年9月7日公開/調査時点 2026年9月7日
← 読みもの一覧へ