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居酒屋10席のシフト表を、Excelから勤怠アプリに移した記録

2026年10月17日 / フジケン

カウンター席と提灯のある小さな居酒屋の店内と、カウンターの上に置かれたタブレットのイラスト
イメージ画像(AI生成のイラスト)

知人がカウンター8席とテーブル2席、合わせて10席の居酒屋をひとりで切り盛りしています。アルバイトも数人雇っていて、シフトはずっとExcelでした。月末になると「今月何時間働いたっけ」を手で数えて給与計算ソフトに打ち込んでいました。相談されたのは「このままでいいのか分からない」という話で、ツールを作る側の人間として一緒に調べることにしました。

結論から言うと、Excelが悪いわけではありません。ただ、調べていくと「残さなければいけないもの」と「それだけでは足りないかもしれないもの」が法律の側にはっきり書いてあり、知らずに運用していると割を食うのは店の側だと分かりました。この記事はその過程の記録です。

先に90秒で知りたい方へ:この記事の要点を動画にしました(音声あり・字幕つき)。法的な判断ではなく、条文・ガイドラインの要点です。調査時点 2026年10月。

1. 何に困っていたか

Excelのシフト表そのものは、よくできていました。日付×氏名のマス目に開始・終了時刻を入れるだけの単純な作りで、見た目にも迷いません。問題は作ったあとの扱い方でした。具体的には、次の3つが毎月の負担になっていました。

小さな店で働く人数が少ないうちは間違いも小さく見えますが、積み重なると毎月の給与計算が数千円単位でずれます。これが「このままでいいのか」の正体でした。

2. 法律で決まっている「残す期間」

調べて最初に分かったのは、シフト表や出勤の記録は「あったほうがいい資料」ではなく、法律で保存が義務づけられた帳簿の一部だということです。労働基準法は、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(これらを合わせて法定三帳簿と呼びます)を事業者に作成・保存させています。

表1:法定三帳簿と保存の起算日(労働基準法107〜109条・2026年10月時点)
帳簿 根拠条文 保存の起算日
労働者名簿 労働基準法第107条 退職・解雇・死亡の日から
賃金台帳 労働基準法第108条 最後に記入した日から
出勤簿(シフト表の記録) 同法第109条「その他重要な書類」 労働者が最後に出勤した日から

保存期間は2020年の法改正で原則5年に延びましたが、附則の経過措置により「当分の間」は3年とされています。実務上は3年を下回らないようにしておけば足ります。10席の店でも対象は同じで、規模による免除はありません。

労働者名簿 退職・解雇・死亡の日から数える 賃金台帳 最後に記入した日から数える 出勤簿(シフトの記録) 最後に出勤した日から数える
図1:帳簿ごとに保存期間の数え始めが違う(労働基準法第107〜109条・施行規則第56条/2026年10月時点)

3. 自己申告だけでは本当はまずいという話

ここが今回いちばん意外だった点です。シフト表(予定)と出勤の記録(実績)は別物で、実績のほうには「客観的な方法で把握する」という義務が別にかかっています。

根拠は労働安全衛生法第66条の8の3です。2019年4月に施行された条文で、事業者に労働者の労働時間の状況を客観的に把握させることを義務づけています。具体的な方法は同法の施行規則(第52条の7の3)に書かれていて、タイムカードによる記録や、パソコンの使用時間(ログインからログアウトまでの記録)などが挙げられています。

自己申告制は、この客観的な方法がどうしても取れない場合にだけ例外的に認められる、という位置づけです。厚生労働省が2017年1月20日に策定したガイドラインは、自己申告制で運用する場合に事業者がとるべき措置として、次の3つを挙げています。

月末にExcelへ手入力していたシフト表は、まさにこの自己申告制にあたります。悪意があるかどうかに関係なく、申告と実態の乖離をチェックする仕組みを自分たちで持っていなかった、というのが実態でした。

① 原則:客観的な方法(打刻・PCログ等) ② 例外:自己申告(やむを得ない場合のみ) ③ 例外を取るなら乖離チェック等3措置が必要
図2:労働時間把握の原則と例外(労働安全衛生法66条の8の3・厚労省ガイドライン2017年1月20日策定/2026年10月時点)

4. 国の統計で見る、クラウド化している側の数字

法律の話だけだと「自分の店だけが遅れている」ように感じたので、実際にどれくらいの企業がクラウドの勤怠・給与サービスへ移っているのかも確認しました。出典は総務省『令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)』の図表3-3で、2026年10月時点でPDF原文を確認しています。クラウドサービスのうち「給与、財務会計、人事」用途で利用している企業の割合は、令和4年46.5%(n=1,858)、令和5年48.3%(n=2,138)、令和6年52.0%(n=1,941)と推移し、同報告書本文も「前年から3.6ポイント上昇」(2026年10月時点の表記)と明記しています。統計法に基づく一般統計調査です。

ただし、この調査には正直に書いておくべき注記があります(同報告書・2026年10月時点で確認)。調査対象は常用雇用者が100人以上の企業で、知人の店のような少人数の個人店はそもそも母集団に入っていません。「半数以上の企業が使っている」という数字を、そのまま10席の店に当てはめるのは拡大解釈です。分かるのは「従業員規模の大きい企業では、人事・給与のクラウド化がここ数年で着実に進んでいる」という方向だけで、小規模店の実態はこの調査からは分かりません。

5. 実際に移した4つの手順

法律の確認が終わったところで、実際の移行作業に入りました。やったことは大きく4つです。

紙のシフト表から、タブレットの色分けされたシフト表へ移すイメージのイラスト
イメージ画像(AI生成のイラスト)
表2:Excelから勤怠アプリへの移行手順(2026年10月の実施記録)
手順 やったこと
① 列の棚卸し 既存Excelの列(日付・氏名・開始・終了・休憩・交通費・備考)を全部書き出す
② 必須項目に絞る 賃金計算に使う項目だけを残し、アプリの取り込み形式に合わせて並べ直す
③ 1週間だけ並行運用 打刻と自己申告の両方を1週間つけ、乖離が出ないか突き合わせる
④ 給与計算との接続確認 締め日・エクスポート形式が今使っている給与計算ソフトと合うかを確認

いちばん時間がかかったのは③でした。打刻と自己申告の両方を1週間つけてみると、休憩の記録だけが毎回5〜10分ずれていることが分かりました。悪気があるずれではなく、「休憩に入った時刻」を正確に覚えていなかっただけです。これは自己申告の精度の問題というより、覚えていられる単位ではなかったということだと思います。

6. 移行してもExcelに残したもの

全部をアプリに寄せたわけではありません。来月のシフト希望を集める作業だけは、これまで通りLINEでのやり取りとExcelへの手入力を残しました。アプリ側にも希望収集の機能はあったのですが、少人数の店には設定項目が多すぎて、かえって時間がかかったためです。

法律が義務づけているのは「実際に働いた時間」の客観的な記録であって、「これから働きたい希望」の管理方法までは指定していません。ここは店の規模に合わせて、手間の軽いほうを選んでいいはずだと判断しました。

まとめ:移す前に決めること

調べる前は「シフト管理アプリに乗り換えれば楽になる」という漠然とした期待でした。実際に動いてみて分かったのは、乗り換えの前に決めるべきことが3つに絞れる、ということです。

次の1アクションとして書いておくと、まず自分の店の出勤記録が「客観的な方法」と「自己申告」のどちらで成立しているかを確認してみてください。自己申告のままなら、厚生労働省のガイドラインにある3つの措置(説明・乖離チェック・上限を設けない)のうち、どれが抜けているかを洗い出すところから始められます。

ひとりで作って公開する過程で踏んだ失敗はこちらの記事に、制度まわりを一次情報で読み込んだ記録は「AI導入に補助金は使える」を読んでみた話に書きました。ログインを作らずにデータを持つ判断についてはこちらをどうぞ。

2026年10月17日公開

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